余命宣告を受け入れられず、どうしていいか分からない日々
自分らしく、かっこよく、悔いのなく生きた人生
  • U様(仮名)
  • 居住地:東京都渋谷区
  • 年齢:60代
  • 性別:男性
  • 診断名/症状:ALS筋萎縮性側索硬化症
  • 生活環境:二人暮らし
  • 発症からの期間:診断されて1カ月後から

ご本人の希望

「・・・」
「人工呼吸器はつけたくないです・・・」

ご家族の希望

妻「どう支えたらいいか分からない・・・」
「とにかく元気になって欲しい・・・」

OTキャンプでの成果

当初の状況
初回面談でお会いしたクライアントは、ALSの診断を受けたばかりで、急速に進行する身体の変化に戸惑いと不安を抱えておられました。
その進行の速さには医師も驚くほどで、診断から数週間で筋力低下が進み、歩行困難に。
初めあまり多くを語らず気丈にふるまっているようにみえたクライアントでしたが、夜間の転倒された経験を語ると、「昨日できたことが今日できない」現実を受け入れざる得ないような不安そうな表情が見られました。

生活面ではすでに複数のヘルパーが日中を通して介助に入っていましたが、各事業所間での連携が十分でなく、介助の方法や声かけにもばらつきがありました。
支援者たちは日々変化する身体状況への対応に追われ、クライアントとコミュニケーションを通わせる時間や余裕は持てていないのが現状でした。
妻も焦っている状況であり、クライアントの「本当の想い」はどこにも届かず、本人も語らず、チームも聴けないという悪循環に陥っていました。

そうした中で、主治医より「進行性の病気だからこそ、心のケアと意思伝達装置の導入を早めに進めてほしい」との依頼に加え妻からご相談を受け、OTとしての介入が始まりました。

サポートの内容
目標:当時、ご本人からの具体的な希望はなく、妻の希望であった「クライアントの心のケア」を主軸に介入を開始しました。

日常生活動作の確保と補助具の導入
身体機能の進行が早く、診断直後から筋力低下と拘縮が進行していたため身体のフォロー、日常生活動作の設定(食事・排泄・移乗動作・日中の座位保持の設定、状況に応じてリフトや除圧ベッドの導入、ST導入提案)、ケアスタッフに介助指導など、日常生活全体の調整を並行して実施。
そして、意思伝達装置の導入から働きかけました。

「心の声」を聴き、チームにつなぐ中核として
訪問時には支援を行いながらも、何気ない会話(ナラティブ)を大切にしていました。
表情や言葉の裏にある想いを丁寧に受け止め、「その人らしさ」や支援のきっかけを探り続けました。
妻から得た情報も踏まえ、クライアントの価値観やこだわり、興味・関心を理解し、「今できること」を模索しました。

あまり多くを語らない方でしたが、ナラティブを重ねる中には、「かっこよくありたい」という想いと裏にある“自分らしさ”を失う恐怖、葛藤や孤独などを少しずつ語ってくださるようになりました。

私はこうした“心の声”を丁寧に拾い上げ、多職種や奥さまへ共有。日々のケアに反映し、チーム全体が「病気の進行に対応するケア」から「クライアントらしさを守るケア」へと視点を転換できるよう働きかけ。
介助が増える中にもクライアントの尊厳を保つ支援体制の強化につなげていきました。


生きた証を残す「実践」
病状が進行してもなお、クライアントは私とのナラティブを楽しみにしてくださり色んな話をしてくださいました。

ハワイ、エジプト、アフリカに行きたい。
昔の行ったことのある旅先をもう一度訪れたい。
マグロを釣って、その場でさばいて食べたい。――

正直、現実的には難しい願いも多くありましたが、OTはその想いを否定せず、「今でもできる形」で実現できるよう考え、実践しました。


実践できた、「したいことリスト」の一部
・長く行けていなかった近くのコーヒー店に行って、至福の一杯を飲むこと
・行きつけだった床屋(バーバー)に行って散髪をしたこと
・かつて訪れたモーターショーを思い出しながら自宅で鑑賞会
・昔のアルバムをみて思い出を振り返ること
・「娘たちや元妻に会いたい、ちゃんと謝りたいという言葉から、手紙を代筆し、渡して、クライアントを囲んだ会が開けたこと

サポートの成果
当初、私の役割は「クライアントの心のケア」を主軸に始まったものでしたが、
・クライアントの心の声を聴き、代弁することで、心の通ったコミュニケーションや尊厳を保つきっかけを作ったこと
・日々変化する生活をチームとして安全かつ円滑にフォローしたこと
・「人工呼吸器はつけたくない」という希望を尊重し、限られた時間の中で「したい事LIST」の実践を行ったこと
・ご家族から「何をしたらいいか分からない状態だったけれど、的確で本人を思った提案をしてくれる人がいてよかった」と言っていただけたこと

上記のように多くの役目を担うことができました。
このような働きが、クライアントにとって少しでも悔いの残らない人生につながっていれば幸いです。



ALSのような進行性の病気であっても、余命が限られる状況であっても、OTはいつも「できること」を探し、見つけ、つなげる視野を忘れません。
どうしても状態や症状に目を傾けてしまう状況においても、こうした視点を持った人が関わることは、当事者にとってとても「意味ある」事につながると思っています。

日々進行する症状や状態だけでなく、クライアントの心の声を聴き、寄り添い、尊重すること。
こうした想いをチーム皆で共有して生活に反映したり、行動につなげること。
特に、本人の意志に伴ったこと(=大切な作業)の実践というのは、どんな状況においても満足感、生きる喜び、活きた証を残すことにもつながっていくと思っています。




利用頻度:週1回(90分/回実践)
支援期間:8カ月で修了